シーン2:ゲルマン諸族、大移動で引っ越し大失敗
草原を切り裂くように、長い隊列が進んでいた。
ゲルマンの諸族が、氷のような寒風から逃れ、肥えた土地を求めて南へ南へと歩む――いわゆる“大移動”である。
だが、誰も言わなかった。
「引っ越し先に空き家がある」と。
「族長、前方に良い土地が!」
偵察が胸を張って報告すると、族長は頷き、鬚を整えた。
「よし、今日こそ我らの新天地――」
「……あっ、先住民つきでした!」
前方の丘から、こちらを威嚇する槍の群れ。
族長の顔が一瞬で曇る。
「うむ……引っ越し先が“先住民つき”とは聞いてないぞ」
「聞いてましたよ。言っても族長が無視するから…」
若者のつぶやきは風に消えた。
次の土地は、もっと良さそうだった。川沿いで、温暖で、暮らしやすそうで――。
「よし、今度こそ我らの未来の地だ!」
だが、倒れた門の陰から現れたのは、くすんだローマ風の石像と、崩れかけの浴場。
「……ローマの残り香つき、ですね」
偵察が肩をすくめた。
「もう“香り”じゃなくて“亡霊つき”ではないか!」
族長が叫ぶと、近くの子どもが石像に向かって手を振った。
「おじさん、怒られちゃったねー」
石像は答えない。千年前から無言を貫いている。
こうしてゲルマン諸族は、あっちで王国、こっちで王国を建てはじめた。
建てては引っ越し、涙を飲んでは建て直し、気づけば地図の上に点々と王冠のマークが並ぶ。
「族長!ここにも新しい王国ができたと……」
「どこだ? 何族だ?」
「名前は……ええと、フランク? ブルグント? 東ゴート? 西ゴート?
正直、私も覚えきれません!」
族長は頭を抱えた。
「ヨーロッパが……王国ガチャになっておる……!」
しかしその横で、若い戦士がほくそ笑む。
「けど族長、ガチャって当たりが出るかもしれませんよ?」
「外れもあるわ!」
「もちろん!」
二人の声は、冷たい風に乗って広がっていった。
それは、偶然にも後のヨーロッパ史の“はじまりの音”になる――。

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