ヨーロッパ大陸に“見えない電波”が満ち始めた頃、人々はこうつぶやいた。
「お祈りするだけでつながるって便利よな」
「回線強すぎて、ノルウェーの漁師まで同期してるらしいぞ」
その名も――
“神のWi-Fi(勝手に命名)”。
祈れば即ログイン。
認証は十字を切るだけ。
しかも全域無料・山岳地帯でも速度低下なし。
だが、このネットワークの真の恐ろしさは「管理者」だった。
アドミン権限はほぼ独占状態。
持っているのは、ローマに座す**教皇グレゴリウス7世(ヒルデブランド)**ただ一人。
◆王たち、アドミンに逆らえず
ある日、神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世は城の作戦室で叫んだ。
「なんでだ!
オレは皇帝だぞ!
なのに“祈りネットワーク”のパスワードが変更できないとはどういうことだ!?」
側近は冷静に答える。
「陛下、それは……アドミン権限がすべて教皇庁に紐づけられておりまして」
「紐づけ!? 誰がそんな仕組みにしたんだ!」
「グレゴリウス7世様です。陛下のアカウントには“制限付きユーザー”と……」
「制限付きィィ!?
皇帝アカウントが制限付き!?」
ハインリヒは壁に頭を打ち付けた。
家臣たちは慌てて止めた。
「陛下!迂闊に暴れると、アカウント停止……いえ“破門”されます!」
「ログイン停止機能ついてんの!?」
「ついてます!最新アップデートで!」
「最新!? いつの間に更新されてるんだ!?」
「サイレントアップデートですので……」
◆教皇、ネットワークの最強管理者
一方ローマ。
教皇グレゴリウス7世は、祈りの声が世界中から“ピコンピコン”届くのを聴きながら、聖職者たちに言った。
「……またハインリヒが勝手に司教を任命しようとしておるな」
「アドミン、どうされますか?」
「よし。“アカウント一時停止”だ」
カチッと指を鳴らす。
その瞬間、遠くドイツの宮廷に“内部通知”が届く。
《あなたの信仰アカウントは停止されました》
ハインリヒ4世、崩れ落ちる。
「ぐっ……!
……ぐぬぬ、ログイン……できん……!」
と、そこへ家臣たちが慌てて戻ってきた。
「陛下! アカウントを戻してもらうには、教皇のところまで行って土下座――
いえ、“雪の中でお祈り”をしなくては……!」
「そんな“二要素認証”みたいな儀式が!?」
「あります!歴史に残るやつです!」
ハインリヒは震えながら叫ぶ。
「……くそっ!
あいつ……アドミン権限強すぎだろ!」
◆一方、民衆は楽しそう
その頃、市場では農民たちがのんびり話し合っていた。
「最近、祈ると心が暖かくなる“祝福アップデート”来たよな」
「わしなんか、昨日“罪のクリーンアップ”通知来たぞ」
「お前、それ懺悔サボってたやつやないか?」
「でも便利やわ〜。教会、また回線強化したんやろ」
どこかの吟遊詩人は新曲を歌っていた。
♪ローマの鐘が鳴れば 大陸ぜんぶ通知が来る〜
祈りは電波〜 信仰はWi-Fi〜♪
民衆は満足げだ。
王と教皇がアドミン権限で殴り合っているとは知らず、ただ“つながっている安心感”を楽しんでいた。
こうしてヨーロッパは、
信仰ネットワークのSSID「DOMINUS」
で全土がつながる時代を迎えたのである。
続きはこちら シーン4:ヴァイキング、略奪しつつ意外とコミュ力高い
「ヨーロッパ、平和になるまで長すぎた件」のその他のシーンはこちら

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